Zephyr Cradle

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Ragnarok Online Variations


砂塵のラプソディ(後篇) #9

 綺麗に磨き上げられた土壁に背中を預けて必死に呼吸を整える。
 周囲に人の影は見当たらない。そもそも邸宅の内に入ってからは人っ子一人出会わなかった。裏口は案外守りが薄く、キーツの立ち回りのお陰で大した怪我を負う事もなく侵入出来た。そして内側はこんなにも静かで、寂れている。
「はぁ……はぁ……」
 聞こえるのは夜風の通り抜ける微かな音と自らの呼吸、ただそれだけ。
 目の前に広がる回廊は広く長く、そこには灯りが点在しているお陰で一挙手一投足に困るようなことはない。正直暗闇というのも好きではないので安心した。
 キーツは先ほど「クソ坊主に頼まれた事をこなしてくるからそこで大人しくしてろ」と言い放って回廊を駆けていってしまった。鎮痛剤(アンチペインメント)を飲んだからといって体力が戻るわけではなく、走り疲れて休憩が欲しいと思っていた矢先の出来事だったので救われた気分だった。
 今自分が立っている廊下はどこだったろうとイフェルは思い返す。一週間この邸宅で過ごしたのでなんとなくだが位置は把握していた。この場所はザーゲンの部屋のすぐ脇、確かすぐ曲がった所に五十万ゼニーほどもする大きな壷が置いてある場所だったはず。
 キーツの話によればツァイトたちも今この家に侵入を試みているのだという。一週間ぶりにギルドのメンバーに会いたいという思いが頭を過るが、ぶんぶんと頭を振ってその思いを払った。今やらなくてはいけないことがあるというのを忘れてはいけない。
 ――ウィーちゃんに会って言わなくちゃいけないんだ。
 だからツァイトやゲインに会いたくても今は我慢をしなければならない。少しだけ。
「おい、終わったぞ」
 頭上から投げやりな声がかけられた。顔を上げるとそこにはいつもの夜色の衣装に身を包んだキーツが居る。
「え、あ、うん」
 なんとも歯切れの悪い返事を返してイフェルは背中を壁から離した。その勢いで少しだけ前方によろめき……キーツに肩を支えられた。
「しっかりしろ、テメェで選んだ道だろ」
「うん、大丈夫」
 えへへと笑うと頬を両手で叩き、それからきっちり両の足で立つ。
「ごめん、行こう」
 キーツは頷くと軽やかな足取りでザーゲンの部屋を横切る方向に疾駆した。イフェルもそれについて行く。既に遠くない場所にウィルアの捕らえられている牢がある。そう思うだけでも胸が高鳴った。

 一週間暮らしたけれど、どこに牢があるかなんて判らなかったから不思議に思っていた。捕まえた女中たちを隠しておくそれは一体どこにあるのだろうと。
 それがまさか、厨房の下に隠されているなど誰が思ったろうか。

 無人の厨房の足元に敷かれている板を外すと、そこには暗い穴がぽっかりと口を開いていた。先の見えない梯子をゆっくりと下る。イフェルは先に下りて、キーツがあとから飛び降りてくる。十メートル近い高さを軽く飛び降りるこの跳躍力にはイフェルも目を見張った。
 下りた先に灯りはない。ただ漆黒の闇が覆い尽くしていた。イフェルはぱちんと指を弾いて、青白い球体をした魔力の灯りを生成する。すると今自分が立っている場所の形が徐々に明らかになって目の前がぐっと開けた感触を覚える。
 壁から天井、足元に至るまで石が敷き詰められていて少しだけ黴臭い。長さ数メートルしかない短い廊下の一部分といった感じで、他に何も見当たらなかった。
「ここが……牢?」
 本当に何もない。ただ石があるだけでがらんとした空間が広がっているだけだった。鉄格子が嵌められているということもないし、誰かが居るという気配もない。
「カモフラージュされていやがるんだよ。……こっちだ」
 キーツはすたすたと先行していくのでイフェルも慌ててついて行く。
 ちょうど廊下の真ん中辺りで立ち止まり、キーツは壁を触って何かを探している。仕掛けでもあるのだろうかと眺めていると、かたん、という音と共に壁の色が変化し始めた。
「すごい……」
「魔導士の使う地属性魔法の応用だそうだ。オレにはよく判らねえがここにあるスイッチに触れると壁が消える」
 色が薄まっていったと思った瞬間、壁はすとんと足元に吸い込まれるように消え去った。そこには扉を開けたように人がちょうど一人通れるほどのサイズの空間が出来ていた。奥は広く、灯りがたった一つだけある薄暗い空間だったが何も明かりがない空間よりは幾分安心出来る場所に感じる。それでもじめじめとしていて決して環境が良いとは言う事の出来ない空間。
 左右には――鉄格子の嵌められた牢が並ぶ。
「ウィーちゃん!」
 彼女の姿を確認した訳ではないがそれでもイフェルは叫ばずにはいられなかった。もう、すぐ側にウィルアを感じていた。
 返事など期待していない。ただその名前を口にするだけでそこに現れてくれるような気がして、だから――

「…………イフェル……?」

 返事が返ってくるとは思ってもいなかった。
 左右に三つずつ並ぶ牢の、右側中央の空間からその声は聞こえた。
 澄んだ高い声。つい数時間前、一緒に星空を見上げた時に聞いた声。
 そのたった数時間を、永遠とも言えるほど長く感じていたのはどうしてなのだろうか。
 牢の前まで駆け寄る。中には一人の女性が冷たい壁に背を預けて顔を上げている。綺麗だった長い髪は少しだけ埃にまみれて乱れていて、それでもその下には懐かしい顔があった。
 それは間違いなく、ウィルア本人だ。
「ウィーちゃん!」
 鉄格子には鍵がかけられていた。それもその大きさは比較的強固なものである。
 イフェルは拳を握ると深呼吸をして腰を落とす。一瞬の溜めの後に左足、そして右足と踏み込んで強烈な右の正拳突きを、鍵に向かって叩きつけた。爆音のような音が部屋全体を揺らし、びりびりと牢の鉄格子たちが震える。鍵は、粉々に粉砕された。
 ウィルアはびくりと驚き、そして申し訳なさそうな、怯えるような表情で、
「……来ないで……っ」
 と訴えた。
 イフェルは格子を開け放ち、ずかずかと牢の中へと踏み込む。ウィルアはなおも拒絶し続け、ずりずりと壁際を這って逃げようとする。
 涙が零れ落ちそうな目を一生懸命抑え込んで、一気に間の距離を駆けて埋める。離れていくウィルアをようやく――ようやく捕まえた。
 倒れ込むように、イフェルはウィルアの胸に飛び込んだ。
「ウィーちゃん……」
 会ったらあれを言おうこれを言おうと決めていたつもりだったが、それも彼女の顔を見たらほとんど吹き飛んでしまった。ウィルアに会えた、触れた、捕まえた――抱きしめた。それだけでもう半分以上の目的が達成されたように思えてしまったから。
 ウィルアは顔を背けたまま何も言わない。じっと何かを堪えているように口元を震わせている。
「ごめん……」
 イフェルは小さな声で、しかしはっきりと呟いた。その言葉には切実に訴える何かが含まれていたのだろうか、ウィルアはちらとイフェルを見やる。
 二人の視線が間近で交差する。今までに何度もそういう事はあったはずだけど、今この瞬間のそれは感触が違った。――いつもよりもどきどきした。
「ウィーちゃんのこと、なんにも判ってなかった。判ろうともしてなかった、んだよね……やっと気が付いた」
「……」
「ウィーちゃんのことを助けようと――力になりたいと、そればっかり追ってた。今までたくさん助けられたからそれの恩返しをしよう、って。でもなんか……焦ってたみたい」
 ウィルアはまた視線を逸らす。イフェルには彼女が何を考えているかなんて判らないけれど、言う事は言ってしまわないとと思った。
「そうじゃないんだよね、助けるとかそういうのって。無理矢理手を貸してあげるとか、優しくしてあげるとか、そんなのは違う。そんな押し付けの優しさはただの独り善がり、自己満足なんだ。だから……あたしは何も判ってなかった」
「……」
「やっと判ったんだ。あたしは――」
 一瞬の間を置いて、そして一気に吐き出す。

「――あたしはただ、好きな人と一緒に居られればいいんだ、って」

 喋りながらまた涙が溢れてきた。視界が霞んで、頬を伝った涙がウィルアの服に落ちる。それに気付いたイフェルは慌てて拭き取ろうと試みるがもうどうにも染みてしまっている。
「あっ、えっと、だから……何て言えばいいのかな」
 ウィルアがくすりと笑った。なんだかそれが天使の微笑みのように見えて嬉しくて、イフェルも思わず笑ってしまった。
「だから……ごめん」
 ウィルアの腕がイフェルの背に回される。少しだけ驚いたけれど、イフェルはその柔らかい手にそのまま抱きしめられた。
「イフェル」
「うん?」
「その……ありがとう」
 顔を見上げるまでもなく、イフェルは彼女が優しく笑っているのだと感じていた。ウィルアはそんなに多く笑う方ではないけれどその雰囲気はイフェルにとって優しく包み込むようで、表情を見ずともそれを感じる事が出来る。だから胸の中で甘える子猫のように収まっていることにした。
 ウィルアも撫でるように腕を回す。
「……私は、今までずっと独りだった」
 思い詰めていたことを自分に話してくれようとしているんだと、イフェルはすぐに悟った。だから嬉しさのあまりもう一度ウィルアに飛びつき直しそうになったのをぐっと抑えて、彼女の吐露をゆっくりと聞くことにした。
「イフェルに会うまでは独りで旅をしていたし、正直言うとギルドの中でもずっと孤独を感じていた。イフェルやツァイトたちが取る馴れ合いの行動全てが冒険者として余計なもの、無駄なものだと思えたから、いつだって足場が安定せずに私の心は揺らいでいた」
 昔を思い出すかのようにウィルアは語る。
 しかしそれは昔なんかではない、イフェルにとってもそれは遥か昔のように思えたけれど実際はほんの数時間ほど前のこと。日没の空、一番星が輝き始める朱い空を見ながら言い争ったその時まで悩んでいたはずなのだ。
 二人ともお互いにその数時間を永く感じていた。
 もしやウィルアも牢の中で自分の事について深く悩み続けていたのだろうかと、イフェルは少しだけ驚く。
「でもそれは違った。私は私の意思で自分を孤独に追い込んでいっていた。……そんな事にも気付かずに、私はイフェルに当たって……」
「ウィーちゃん……」
 彼女も悩んでいた。イフェルとのあのやりとりを思い返してその答えを導き出そうとしていたのだ。
 嬉しかった。ただ自分の事を気にしてくれていたというだけで、今のイフェルにはもう十分過ぎる答えなのである。
「もういいよ、ウィーちゃん」
 イフェルは上目遣いにウィルアを見上げる。
「これからまた……ゆっくりやり直して行こうよ。今までは道をちょっと踏み外しちゃっていて、お互いの事なんて構っていられないくらい余裕がなかったけどさ……それはまたやり直せば済む事だよ。今まで溜めてきたわだかまりは全部水に流して、一から始めようよ。ね? 難しく考えてるのはもう疲れちゃったからそうしよう、うん!」
「適当過ぎ……」
「大丈夫大丈夫っ。上手く行くってば!」
 ウィルアは大きく溜息を吐いて、少しだけ呆れたような表情をした。
「相変わらず根拠がないね、イフェルの言葉には」
「上手く行けばそれでいーの」
「まあ、そういう適当な考えは嫌いじゃないよ。私にも少しそういうゆとりが必要なのかもね」
「それって……誉めてるの?」
「一応、誉めてるんだけど」
「一応って何さ、一応って!」
 イフェルは少しだけムキになって突っかかったが、それはいつもの調子を取り戻したウィルアを見て安心した感情を隠すため。こういう呆れ顔を見せたり突っ込んだりしてくれるような行動をしてくれるのが本来のウィルアの姿だと思っている。
 突然神妙な顔つきになったウィルアはイフェルを身体から少しだけ離し、きょとんとしているイフェルは正面から見つめられた。
「…………」
「な、何? 突然黙っちゃって」
 イフェルが不思議そうに覗き込むと、ウィルアは呼吸を止めていたのか盛大に息を吐き出した。
「……悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。ごめん、何でもないよ」
「本当に?」
「本当に」
 言う必要などないとウィルアは判断した。ギルドを抜けようと思っていたなどというわだかまりを、今更イフェルに伝えたところで何かが変わる訳でもない。
 ウィルアは思う。もう一度やり直せるというのならばそんな秘密は自らのうちに仕舞い込んで、何事もなかったかのように振る舞っていれば良いのだ。そんな気持ち、もはや関係ない。今大切なのはこの孤独を抜け出したいという仄かな思いと、イフェルへの少なくない感謝の気持ちなのだから。
 再び腕の中にイフェルを収めて、ウィルアはもう少しだけこうしていたいなと思った。

***

「そろそろ出ようか、ここ」
 イフェルは頷いて、ウィルアに手を引かれて立ち上がった。見れば両手首には妙な器具が嵌められている。どこかで見た事がある。これは確か魔力制御を妨害するアクセサリーだったような覚えがあった。
「これどうやって外そっか。またさっきみたいに発勁使っちゃうとウィーちゃんの手が危険だし……」
「アジトに帰るまで魔法が必要でなければ、気にせずこのままでもいいよ」
 そうは言われても、こういう魔力を妨害するものを着けていると頭痛が起きたりなどの体調不良が引き起こされるという話をよく耳にしていたから、気にするなと言われてもイフェルには気になって仕方がない。
 そうやってイフェルが唸っていると、ウィルアは「それじゃあ」と言って鉄格子の外を指差した。そこに何かあるのだろうかとイフェルは目を凝らして見張ったがウィルアは「そうじゃない」と言って首を振ると、一人牢から出て、
「ゲイン」
 と、どこかで聞いた事のある人物の名前を呼んだ。
 ――ゲイン?
「う……いつから気付いてたんだい、ウィルア」
「こんな狭い場所で誰か来れば、嫌でも気配が判るよ。はぁ……まさか気付いてないとでも思ってた?」
 イフェルは一瞬頭の中が真っ白になった。そこにはゲインだけでなく他の人物の声も聞こえる。この声は、声たちは――
「なななななな」
 妙な声を上げながら牢の外に飛び出すと見慣れた連中が目に飛び込んできた。ウィルアはゲインに手首の器具を切り落としてもらっていて、他に三人ほど仲間がそこに立っている。
 ウィルアは解放された手をぶらぶらと動かしながら呆れたようにイフェルを睨みつける。
「……イフェル、貴方まさか気付いてなかったの?」
「なんで? いつのまにそんなところに居たの?」
「五分くらい前だったと思うけれど」
 鋭い眼光で睨みつけるとシュウとアルティはこくこくと頷く。関心なさそうに外の廊下の壁に持たれているツァイトは何も反応を示さないが、否定もしないところを見るとどうやらそうらしい。
 キーツの姿が見えないところをみると、相変わらず用件だけ済ませて消えてしまったのだろう。
 五分前というとちょうど二人で抱き合っていた真っ最中。優しいウィルアの腕の中に収まって、ぼんやりと意識が遠のいていって……
 イフェルは頬を真っ赤に染めた。そんな訳はないと思いつつも絶対にそうだと確信していた。自分がウィルアの腕の中でぐっすりと眠り込んでしまい、そんなところにツァイトたちが訪れて。
「いいじゃないのイフェル。そんなところ見られても今更何か減る訳でもないでしょ」
 アルティがさらりと言い放つがそういう問題じゃない。他人の目からは微笑ましい友情だとかそういうものに映ったのだろうけれどやっぱり体裁とか格好とかそういうものを気にしてしまうお年頃であるわけでつまりその――
「うー……」
 ――恥ずかしかった。イフェルは既に十八、もう子どもではないと言い張っていたのがこの有様で、それを仲間に堂々と見られてしまったというのはやはりどうしても、気にしてしまう。
「覗き見なんて……趣味悪いよ、みんな……」
 女の子同士がべたべたしていたという事実もそうだったがそれよりも、
「あそこまで凄い寝相は……初めて見ました」
 シュウのその真剣な驚きっぷりに、イフェルはがっくりと膝をついた。
 ウィルアは「あれは出会った時からで、慣れてるよ」ととか言っていて、ゲインがくくくと含み笑いをしている。
 ああ、もうどこか遠くに逃げてしまいたい。
「イフェル」
 頭を抱えてうなだれていると、目の前に細く白い手の平が差し出された。
「いつまでそうしてるつもりなのよ、ほら」
 その手首にはもう拘束具など着いていない、自由に解放された腕がイフェルの目の前にある。
 見上げると、片手で髪を掻き上げながら少しだけ視線を逸らし呆れた表情を浮かべている。
「……もう一度、やり直すんでしょ?」
 何かその仕草が少しだけ初々しくて、イフェルは思わず微笑んだ。
 ウィルアは歩み出した。どこへ行こうとしているのか、最後の目的地は遠過ぎてまだ見えてこないけれどイフェルはそれにとことん付き合ってやろうと決めた。彼女は自分の事を世話の焼ける妹か何かだと思っているのかもしれないけれど、ウィルアだってイフェルから見れば素直じゃない姉のように感じる。
 ――そんな放っておけない人間同士、お互いを見つめ直してもう一度やり直そう。
「ウィーちゃん」
「何?」
 イフェルは差し出された手を強く握り返した。しっかりと握り締めて、容易には離れないように。
「また……よろしく」
 ウィルアは少しだけ驚いた表情を見せて、ぽそりと、
「……よろしく」
 はにかみながら呟いた。
 その腕に引き上げられて勢い良く立ち上がる。今更だけどメンバーがここに揃ってるということは全て終わったということだろう。ツァイトはイフェルの顔を一目見ると踵を返して出口へと歩き出した。
「ひとまずアジトへ戻る。残りの話は、それからだ」
 何かまだ気がかりなことが残っているのだろうかと思いながら、胴衣の裾についた埃を叩き落とす。
 とにかくアジトに戻る事には賛成。こんなじめじめした場所に長居――既に一眠りしてしまったのだけど――はしたくないし、それにこの飢えと寒さと疲れを十分に癒したかった。何か少し吹っ切れたようなウィルアの顔を見ているだけで精神的に満たされるものはあっても、実際腹が膨れるわけも体力が戻るわけもなく。
 だから今、まず真っ先にやりたい事と言えば。
「毛布に包まって丸一日寝たい……」
 横に居るウィルアが溜息を放つ。
「貴方、普段からそれやってるじゃない」
 ゲインの吹き出す笑い声と、アルティとシュウの含み笑いが狭い空間にこだました。ツァイトはウィルアと同じように呆れた表情と微笑をかけあわせたような顔をしている。
 イフェルはなんだか馬鹿にされたようでむっとしたけれど、そこに不快感だとかいう気持ちは湧かない。
 ――帰ってきた。
 そう思う気持ちの方が強かった。やっぱり自分の居場所はここなんだと思う。この温かい空間が何より一番好きなのだ。
 横に居るウィルアの顔をちらりと見る。

 ――願わくば、彼女にとってもここが新たな居場所にならんことを――

 果てない砂漠には、新たな一日を告げる朝日が顔を出していた。



 ―――fin.



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