Hydrangea Macrophylla

リレー小説企画1

far away

#1 日常の中の異端

 朝は苦手だ。
 何故だかよく判らないけどこんなに眠いのに起きなければいけないなんて、
ぬくぬくと暖かく心地良い布団の中から這い出るなんて、酷だと思う。
夢を見るのは楽しいし、時に恐ろしい夢だったりしてもそれはそれでわくわくする。
 だからいつも思う。
自分以外の人たちはどうしてそう易々と床を抜け出せるんだろうって。
「兄貴、そんな事考えてる暇があったらさっさと起きたら?」
「……んん」
 渋々と目を開け飛び込んできたのは、燦々と照る陽の光と相変わらず口の悪い弟の姿。
カーテンはいつのまにか開け放たれ、眩しいほどの光を吸収している。
 ベッドの前に立つ呆れ顔の弟はすっかり着替えも終わっていつでも登校出来る態勢だ。
「……景(けい)、今何時?」
 我ながら相当寝ぼけた声だったと思う。
むっくりと身体を起こしながら問いかけると景が答えるのと同時に壁にかけた時計が目に入った。
「もう八時だよ」
 学校のホームルームは八時四十分から始まるため、
それまでに教室に居なければ遅刻扱いにされる。
我が家から校門までは早ければ三十分で着くけど、
電車を捕まえることが出来なければ最悪五十分もかかる場合がある。
景は既に朝食も済ませているだろうからちょっと走ればまず間に合うんだろうけど、
今日のこの状況はちょっとまずいかもしれない。
 弟の寝ぼけながらも睨めつけてくるような視線が痛かったので、
寝癖だらけの頭を掻きながら、仕方なく布団から出ることにした。
これもいつも思うのだけど、この温い空間から這い出る時の布団はとても重い。
 窓から漏れる朝の陽光は目を焼くように輝いている。
太陽までもが自分に起きろと訴えかけているよう。
「まったく、提出日の前日までレポートやらないからそうなるんだよ。
 いつまでたっても懲りないよなあ、兄貴は」
「性格というのはいつまでも直らないものなのだよ、景君」
「直す気が無い、の間違いだろ兄貴の場合」
「そうかも」
 兄の頼り無い言葉に景は盛大に溜息をついた。
 この弟は兄である自分よりも背が低く、体格も小柄と表現するのが適当なくらいなんだけど、
口先と手先の器用さは人一倍優れている。
兄の自分がこう誉めるのも少々恥ずかしいけれど。
 ベッドから降り布団をきっちりと畳み、洋服掛けの真っ黒い制服に向き合うと、
景はそれじゃと言いながら部屋の扉に手をかける。
「俺は先に行くから。兄貴も遅れるなよ。
 後輩たちの間では結構慕ってる奴も多いみたいだし、醜態は晒さない方がいいと思う」
 そうそう、景の話によると入学式と新入生歓迎会でピアノの演奏を披露した日以来、
何故だか自分にファンというものが出来たらしい。
大して上手い演奏をしたつもりはないのだけど後輩たちに気に入られてしまったんだという。
 好かれる事は勿論嫌いではないのだけど、堂々と遅刻が出来ないというのはちょっと困りもの。
「いや、堂々と遅刻するのは元から良くないんだけど」
「はいはい、肝に銘じますよ」
 本当に判ってるのかよと呆れる弟に笑顔を返してやるとさっさと退室してしまった。

 時計の針はもう五分を指している。
ああは言ったものの、これはもう遅刻かな。 
 窓際に置いてある仙人掌の影が、ほんの少しだけ短くなった。


*


「よっ、風一(ふういち)。今日は遅いな」
 教室に着いた時、時計は八時四十分ちょうどだった。
担任は到着していないようでクラスはまだざわめいている。
遅刻というのは正確に言えば担任が出欠を採るまでに座席につけてない奴の事で、
どうやら自分はぎりぎりの所で間に合ったみたいだ。
「おはよ、将平。レポートで夜更かししたらこうなった。
 急いで来たからお陰で朝飯食べてないんだよ。腹減ったぁ……」
 机に突っ伏しながらぼやくと、友人の相田将平は大きな体躯を揺らして呵々と笑う。
金色に染めたぼさぼさの髪はいつもながら寝癖なのかパーマなのかよく判らない。
「俺みたいにあっさりと諦めればそうなることも無いんだぜ。
 もっとお前も潔くなったらどうだ、ん?」
 肩に手を回して諭すように語りかけてくるけれど、
そう潔く切り捨てて将平のように進級出来るかどうか瀬戸際の成績というのも考え物だと思う。
「それにお前は結構成績良いんだから、ちょっとくらいサボったって問題ないだろ」
「提出物を出さないっていうのは好きじゃないな」
「なんでだ?」
「授業サボってもそこそこ成績採れるから」
 言うと将平はくつくつと腹を抱えて爆笑した。
可笑しくなってつられて自分も笑ってしまった。
 将平とは中学の時からの付き合いだ。
彼も当時は相当荒れていたのだけど今は結構落ちついてきたと思う。
体格とその風貌、行動からヤンキーっぽいなどと良く言われているようだが、
根は良い奴でなかなか憎めない。
 今では彼のお陰でサボり癖がついてしまった。
あまり誉められた事ではないけど楽しい日々が送れるのならそれでいい。
まあ、これでもその授業態度で成績が採れるのは凄いとよく誉められる。
「ちょっと……遠近(とおちか)君、相田君、先生来たわよ。早く席に戻って」
 気付くと隣の席に座る佐光(さこう)綾が目を細めてこちらを睨みつけていた。
腰まで垂らした長い黒髪が印象的な、このクラスでトップの成績を誇る優等生である。
「へいへい、判りましたよ委員長さん」
 将平は占領していた他人の椅子から立ち上がると、
ひらひらと手を振りながら廊下側の席へと戻っていった。
 学ランのボタンを開け放ったその格好は大抵の人を怯えさせるのだけど、
佐光はそんな事を気にも留めずに挑戦的な発言をする。
実際自分もそうなのだが、女子で将平と対等に会話が出来るのは佐光くらいなものだ。
「この時期、受験で皆ぴりぴりしてるっていうのに、貴方たちよくそう騒げるわね」
 担任の教師が出欠を採り終えると軽い事務連絡が続く。
進路希望調査票の提出期限だとか、進路指導室の開放時間の連絡だとか、
今日の日直は放課後のホームルーム前に職員室までプリントを取りに来いだとか、
そんな他愛も無い連絡の最中に佐光は小声で話しかけて来た。
「騒ぎたい時は騒ぐのが一番だと思うけど」
 受験が押し迫っているが進路も決まっていない自分らにそんな事は無関係、とは言わない。
けど、そう追い詰められるように勉強勉強とやってもそんなに効果があるとは思えない。
 ――それに。
「それに、人生気楽が一番だよ」
「……そんな事で成功出来たら皆苦労しないわよ。
 良い将来を掴み取るために、必死で勉強してるのよ皆」
「皆、皆って、俺は俺だよ。
 その皆っていうものの中に俺は入ってないって事でしょ。
 それでいいじゃん、気にしない気にしない」
 微笑みながら緩く言い返すと佐光はむっとした表情で何かを考えているようだ。
 佐光は頭も良く、クラス委員長に任命されているだけあって何事も真剣に捉える。
だから少しお固いところがあって、あまり他人と打ち解ける事が出来ていないように見えた。
不便な性格だなと思う。
特に悪い事もしていないのに、本人が良かれと思ってやっている事が裏目に出て嫌われる事があるなんて。
 佐光はクラスの問題児である将平とよく揉めたりする。
将平もよく絡まれてうんざりしているのを見かける。
そういう時は大抵、将平がとんずらしてしまうのだけど、
実際問い質してみると大して佐光を嫌っていないと言う。
 その理由までは聞いた事がない。
きっと訊いても本人も判らないと言うと思うけど。
思うに、二人とも一匹狼なところがあるからなんとなく憎めないのかもしれない。
「……軽いのね、遠近君は」
 佐光がぼそりと呟くのが聞こえた。
また小難しい顔をしているので相変わらず難しく考えているんだろうな。
 自分は確かに軽いかもしれないけど、このスタンスは結構嫌いじゃない。
深く考え過ぎて気落ちしてしまうよりはこうやって呑気にやっていったほうが気楽でいいと思う。
「でも」
 佐光はまた何か呟いた。
まさか今の言葉に続きがあるとは思っていなかったので正直驚いたけれど、
次に来た言葉は更に驚かせられた。
「その性格は嫌いじゃないわ」
「え?」
 何を思ったか良く判らないけれど佐光はそんなことを口にした。
問い質そうかと思ったけれど何か訊けるような雰囲気ではなかったのでその日は訊くのをやめた。
 担任は生徒が喋っていても気に留めず、何事もなかったかのようにホームルームは終えられた。

 結局、佐光は昼休みまで口を利いてくれなかった。
 廊下側へ目を向けると将兵は大きなあくびをして目蓋を潤ませている。
 窓の外は雲一つない綺麗な五月晴れで、屋上で寝そべればどんなに気持ちの良い事だろう。
今日は屋上で昼食を摂ろう。うん。
 そう決めて午前の授業は空腹を我慢して寝ることにした。


*


 教壇に立つ教師が授業の終わりを告げると、同時に間の抜けた鐘の音が校舎内に響き渡った。
すると静寂に満ちていた教室という教室にざわめきが戻ってきた。
机同士を付けて弁当を広げる者や、中庭で食べようなどと言って外へ行く者、
早弁を済ませてしまっているので校庭に向かって走り出す者と、
各々の個性的な時間がこの昼休み。
 また、チャイムが鳴るのを待っていた者たちは急いで教室の外へと駆け出している。
購買のパン争奪戦が今日も始まった。
「遠近君、授業終わったわよ」
「……え、あ、うん」
 目蓋が重い。
終業のチャイムは聞こえていたけれどその意味を理解するのに三十秒かかった。
佐光に声をかけてもらえなかったら昼休みも寝過ごしてしまう所だったかもしれない。
「今日はいつもよりもぐっすり寝てたわよ。珍しいわね」
 佐光は鞄から取り出した弁当を抱えて椅子から立ち上がっている。
 起こされたもののまだ眠気が抜けきれず、伸びをしながら盛大にあくびをした。
「っんー、今学期初のレポートだったから、夜更かしも久々でねえ。
 ……あれ、将平は?」
「さっきの休み時間から既に居ないわよ。鞄も無いし、帰ったんじゃないかしら?」
 帰ったという事はないと思う。
さっきの授業は将平の嫌いな日本史の授業だったから、多分それが理由でサボったんだろう。
あの先生は態度とか身だしなみの悪い生徒をしつこく責めたてて、
その上成績優秀な生徒の事は優遇するという前時代的な老人教師だったのでよく嫌われてる。
最初の授業で真っ先に髪を染めるなだとかピアスなんてするんじゃないだとか言われていたので、
テストの日以外は出席しないつもりなんだろう。
将平はそういう人間だから。
 昼休みになったからと言ってそのまま帰ってしまう事は無いだろうから、
きっといつもの場所に行けば会えるはず。
 そんな事を考えているうちに佐光はそれじゃと言って教室から出ていってしまう。
「って、佐光はどこ行くのさ?」
 少し声を張り上げて訊くとドアからひょっこり顔を出してきた。
「今日は学生室で委員会。朝の連絡聞いてなかったの?」
 朝は佐光と話をしていたから聞いていなかったんだけど、と言おうと思ったけどやめた。
会議なのに引き止めてしまうのもまずいので適当に返事を返して早く行くよう促した。
佐光はこちらの言葉に従って早足で廊下をかけていった。
引き止めた所為で遅刻されてはこっちも困る。
 突然、ズボンのポケットが震えた。
何事かと黒い革のストラップの付いた携帯を取り出して画面を見やる。
 未読メール、一通。
 送信者、相田将平。
 お前の分は買っておいてやったから屋上で食おう、との事。
 予想通り屋上に居るらしい。
ストラップとは対照的に白い色をした携帯を勢い良く閉じると自分も教室を後にした。
 廊下は春の陽気と生徒たちの新鮮なざわめきが心地良かった。

 屋上の重い扉を開けると強い風が吹き込んで来た。
この季節は南からの暖かい風。
晴れた日の昼食や放課後はここでゆっくりと過ごす事になんとなく決まっていた。
 屋上から見えるのは真っ青な空と背の低い住宅街。
都会と田舎の中間のような位置に当たるこの街は住宅街が特に多かった。
更にこの学校は小高い丘の上に建てられているので景色は特に綺麗で、
秋の夕焼けは一番のお気に入り。
 柵にもたれかかってのんびりとパンを頬張っている金髪の生徒は、
こちらに気付くと左手に持っていた袋を放って寄越してきた。
上手くキャッチして中を開けると入っていたのはチョコチップパンとコロッケパン。
そしてしっかりとレシートも入っている。
「サンキュー。やっぱり四限目休んでると確実にチョコチップパン買えるね」
 購買で売っているパンの中で最も好きなものはチョコチップパン。
そしてこれは結構人気が高いらしく、授業が終わってすぐに走っていかなければ売り切れてしまう。
買えなくても問題は無いのだけどたまに買えないとこれがちょっと悔しい。
なので将平が四限目をサボった日は代わりに買ってきてもらうという図式がいつのまにか確立していた。
 将平は頬張りながら右手を差し出して来た。
自分はレシートを見て代金を確認すると、財布からそれだけの金を――。
「あ、足りない」
 言うと将平の拳が飛んで来たが軽く引いて難なくかわした。
 殴ってきたといっても怒っているのではなくて、むしろ笑っている。
「さっきジュース買った時やばいかなあとは思ったんだけど、本当に三十円足りないなんて。
 ごめんごめん、明日持ってくるから」
「三十円くらいまけてやるよ。そのくらいどうってことないからよ」
「本当? じゃあお言葉に甘えてさせていただきます」
 そう言って財布の中身を全て渡すと将兵はポケットにそれをねじ込む。
そのまま最後の一欠片を口へ放り込むと満足そうな顔を浮かべて床に座り込んだ。
 自分もその隣の柵に寄りかかると、袋からチョコチップパンを取り出して一口頬張った。
チョコの甘い舌触りとパンの湿ったような乾いたような感触が混ざり合って口の中で溶け合う。
この味が好きでたまらない。
普通のパン屋で買うものよりもここの購買のもののほうが数倍美味しいとお奨め出来る。
「風一って本当に美味そうに食うよな」
 いつのまにか将平は口に煙草をくわえている。
当然、高校生の自分たちにとって喫煙は校則違反であり無論違法。
それでも将平はお構いなしに吸っている。
昔この現場を見つかってしまいあわや退学かと思われたが数日の停学処分の後、
無事復帰することが出来た。
次は無いぞと生活指導の先生に念押しさせられたそうだけど、
その体育科だった先生は今年転勤してしまい、次に来た生活指導担当は若い教師だった。
一度睨みをきかせたら何も言ってこなくなったから、と言って将平は今でも吸っているという訳だ。
 そもそも屋上に立ち入る事すら校則違反だったりするので今更と言えば今更。
 紫煙は屋上の強い風に乗ってすぐに掻き消えていく。

 将平は静かに煙を吸い込み、一気に吐き出す。
 そんなゆっくりとした午後の時間がとても好きだった。
 会話が無くともお互いを感じていられる、のんびりとした昼休み。
 また今年一年間もこんな日々が過ぎていくんだろうなと、そう思うと思わず笑みがこぼれた。

 だが、それはすぐに打ち破られた。


*


 見下ろす校庭の端を黒い影が横切った。
いや、正確には横切ったように見えただけであって本当かどうかは判らない。
 けれど、今のは確かに見えた。
 いや、『視(み)』えた。
 見間違いなんかじゃない。あれは何かを追っているようだった。
 視線をその先に移す。
 その『何か』が通った道を追っていくと体育館の裏を通り抜け、
裏口から学校の敷地を出て、行きつく先は、鉄道の操車場。
 今この時間は全ての車両が出払っている上、規模も大きくないゆえに無人ではあるけど、
それなら何故そこに『あれ』は向かっているんだろう?
「おい、風一……?」
 少し身を乗り出し、目を凝らして『視』る。
 黒い影が居ないか、他に何か視えないか。
 何か――。

「……居た」

 犬、いや『黒い狼』が三匹。
 それぞれが勢い良く操車場を駆け回っている。
 だが当ても無く駆けているのではなく、確かに何かを追っているように感じた。
 一体何を追っているんだろう。
 再び操車場を『視』る。
「おい風一、どうしたんだ」
「将平、ちょっと黙ってて!」
 遠くのものは神経を集中しなければ確実に捉えられない。
 操車場はそう広くなかった。
例え車両が入るであろう車庫があったとしても、
その程度ならば内側まで何の苦も無く見透かす事が出来る。
 建物の中から外までくまなく視線を走らせる。
 何を、一体何を追っているんだ。
 今までにこんな事はなかった。
『あの存在たち』が何かを襲ったり追ったりするなどという事は、ただの一度も。
 だからこそ、何か胸騒ぎがした。
 落ち付け。
 落ち付かなければ意識が乱れて視えるものも視えなくなる。
 一度目を閉じ、大きく深呼吸してから再び操車場に目を向けた。

 そして、ようやくそこ『追われる者』を見た。

「あの子……なのか?」
 そこに見た姿は紛れも無く、人。
 それは『視』るまでもなく見える、人間の女の子だった。
 短く切り揃えた髪を振り乱しながら走り回る、中学生くらいの女の子。
 だが、普通に見えるとは言っても「何の変哲も無い」とは言い難い。
 それは着ている服。
その子が身に付けている服は、今の時代で言う和服とか着物とか言うもの。
黄色と茶色の中間、山吹色というんだろうか、そんな色をした袴と、真っ白い羽織。
時代錯誤もいいところだけれど、色遣いも見た事がない奇抜な組み合わせだった。
 何なんだよ、一体。
 訳が判らない。
 この『目』のお陰で、何かとんでもない事に巻き込まれてしまったのかもしれない。

「――――っ」
 気付いた時には駆け出していた。
屋上の扉を力いっぱい開け放ち、階段を一段飛ばしで駆け下りる。
 自分でもどうしてこんなにも真剣になっているのか判らなかった。
今までも何度かこうやって『視』えた事はある。
だけどその現場に行かなければという衝動に駆られたのは初めてだった。
 あの黒い狼がとった行動が奇妙だったからか。
 あの少女が居たからなのか。
 どっちも、かもしれない。
「風一! ちょっと待てよ、おい!」
 どっちでもいい。
 何でもいい。
 もしかしたら、この目の正体を知る手がかりになるかもしれない。
あの少女が狼から逃げまわっているという事は、
少なくとも彼女にも『視』えているという事なのだから。
 将兵の声はもう聞こえない。
廊下を走って昇降口から上履きのまま、操車場へと向かった。
佐光と景に廊下ですれ違ったような気もするけれど、そんな事はどうでもよかった。

 今はただ、あの場所へ行かなければ。





Copyright(C)2003-2004 by HydrangeaMacrophylla All Rights Reserved.